プロジェクトストーリー Project Story

2週間で巨大橋を架け替える。 前例のないプロジェクトを 成功に導いた4人の物語

高速大師橋リニューアル

東京と神奈川の境を流れる、多摩川に架かる高速大師橋。全長約300mにも渡る新旧の橋桁を2週間で架け替えるこの壮大なプロジェクトには、幾多の困難が立ちはだかっていました。ここでは、同プロジェクトに携わった担当者4名へのインタビューを通し、高速大師橋リニューアルプロジェクトを成功に導いた軌跡についてご紹介します。

高速大師橋は、多摩川を隔てた東京と神奈川を結ぶ重要なインフラとして1968年に開通しました。1,200カ所以上の疲労き裂が発生するなど、建設から50年以上が経過した橋の架け替えは急務でした。既設橋を撤去し、長さ約300m、重さ約4,000tの新設橋桁の架け替えを行うにあたり、与えられた期間は2023年5月27日から6月10日までのわずか“2週間”。工事に伴い、高速1号羽田線と高速神奈川1号横羽線の一部区間の通行止めを行う中、如何にして交通影響(渋滞)を最小限に抑え、期間内での施工を完遂したのでしょうか。当時の知られざる奮闘と成功の秘訣に迫ります。

Project Movie約5分10秒

高速大師橋リニューアルプロジェクト

戦略的な事業PRを通して
プロジェクトの意義を広く世に周知

Y.Tokuta

技術系総合職(土木)
更新・建設局 事業管理課
理工学研究科卒 2018年新卒入社

2018年に新卒入社後、更新設計課や保全工事事務所を経験したのち、2022年7月から1年間、更新・建設局 事業管理課にて同プロジェクトを担当。現在は東品川・鮫洲更新事業などに携わる。

高速大師橋は建設から50年以上が経過し、1日約8万台の自動車交通による過酷な使用状況などにより、橋梁全体に多数の疲労き裂が発生していました。日々、点検・補修を行ってきましたが、構造物の長期的な安全性を確保する観点から、「修繕ではなく新たに造り変えた方が良い」との結論に至り、今回の一大プロジェクトがスタートしたんです。私が所属する事業管理課では、事業全体の工程管理や事業費管理、事業の認知度向上のための広報などを担当。2週間の通行止め期間中は、マスコミ対応や、供用(道路の交通開放)に向けた各種検査対応などが主な業務でした。

通行止めによる交通影響を可能な限り抑えるため、事業管理課では特に、事前の事業PRに力を入れて取り組みました。「なぜ架け替え工事が必要なのか?」「工事は計画通りに進んでいるのか?」など、本プロジェクトの意義を広く世に周知し、通行止めへのご理解をいただけるよう、報道機関向けの現場公開を複数回実施。架け替えの2週間前には、架け替え直前の準備状況を公開しました。マスコミの皆さまに、工事前だけでなく工事期間中もニュースとして取り上げていただけるよう広報戦略を練り、協力を仰いだ結果、数多くの番組で本プロジェクトを紹介してもらえたのは嬉しかったですね。

通常、工事完了から数カ月かかる各種検査と供用手続きを、2週間の通行止め期間中に完了させなければならなかったことも大きな課題でしたが、事業管理課ではプロジェクト開始当初から、自治体や河川管理者、道路管理者などの関係機関と調整を重ねていました。長期的な調整が実を結び、無事2週間で検査と供用手続きを完了した際は、「ついにやり遂げた…」と安堵感で胸が満たされましたね。本プロジェクトの成功には、社内関係部署間の密な連携がありましたが、詳細はこの後登場する3名に語っていただくことにしましょう。

2週間通行止めの実施に向けた
高い分析力と広報展開

Y.Suzuki

技術系総合職(土木)
更新・建設局 調査・環境課
北方圏環境政策工学専攻卒 2016年新卒入社

2016年に新卒入社後、計画・環境部 快適走行推進課に配属。2018年から2年間「大師橋工事事務所」で工事監理を、2022年から「調査・環境課」で交通影響・環境影響の分析や工事広報の立案を担う。

架け替え工事に伴い、高速1号羽田線と高速神奈川1号横羽線の一部区間を2週間通行止めにしましたが、その間にお客さまが通常時と同じ行動をとってしまうことで大きな交通影響が生じることを懸念していました。調査・環境課では大きな交通影響の回避に向け、車両感知器やETC2.0プローブデータなど、道路上から得られる交通データや各種の調査結果を用いて、通行止めの間の交通影響を分析。そして最適な通行止め区間の設定や、その期間中の渋滞予想、通行止めとなる首都高入口からの迂回経路の検討などを行いました。その結果をもとに、首都高の利用控えや混雑が緩和する時間帯での走行、あるいは他の交通機関の利用を検討いただけるよう、特設Webサイトをはじめとした各種広報媒体で、主要区間別の交通影響の予測値を公開しました。

テレビCMやWeb広告など、媒体によって提供できる情報量が異なるので、「どういった見せ方や文言でお伝えするのが最適か」、慎重に社内で検討を重ねながら工事広報の方針を決めていきました。朝/昼/夕/夜/深夜の時間帯に分けて、渋滞予想を公開したのは初の試みでしたね。前例のない取り組みは他にもあり、多くの人の目に触れる大型ショッピングモールのデジタルサイネージに広告を流したり、事業管理課が企画したYouTube動画に出演し、渋滞回避への協力をお願いしたりしたことも。

工事広報に注力した結果、交通影響の回避についてお客さまに情報が伝わり、当初の想定交通影響を抑えられたのは嬉しく、供用時の瞬間は頭の中に映像として焼き付いています。6月10日午前5時、調査・環境課の社員は、更新・建設局のオフィス内に設置してあるモニターを見つめながら、他の社員と一緒に道路が解放される瞬間を今か今かと待ちわびていました。1台目のトラックが通ったとき、自然と大きな歓声と拍手が!私は入社7年の内、約3年半高速大師橋のリニューアルプロジェクトに関わっていたので、胸にこみ上げてくるものがありましたね。きっと周りの社員も同じ気持ちだったと思います。オフィス内はしばらく、一大プロジェクトを成し遂げた余韻に包まれていましたから。

あらゆる工程遅延リスクを洗い出し
2週間の工期内で完了させる

S.Oh

技術系総合職(土木)
技術部 技術企画課
理工学研究科卒 2020年新卒入社

2020年に新卒入社後、設計課を経験した後、2021年10月から2023年6月まで、更新・建設局 大師橋工事事務所にて施工管理などを担当。現在は本社の技術部 技術企画課に所属。

本プロジェクトにおいて私は、施工計画の検討や工程管理、工事費算出などを担当しました。既設の橋梁を全て撤去し、新たに橋梁を架け替える場合、短期間で完了させることは不可能です。そこで当社は「横取り一括架設工法」を採用しました。工事の流れとして、まず架け替える新設桁の3径間の内、2径間は工事区域外で組立てを実施し、それぞれ全長約100mの大ブロックの状態で台船に載せ、東京湾を通って多摩川を遡上。工事区域内のベント設備上に2つの大ブロックを架設し、残りの径間を工事区域で組み立てて、架け替える新設桁を完成させました。そして、通行止め期間中に既設の橋桁を上流側に約30m移動させた後、新設桁を既設桁のあった箇所にスライドして架設を行いました。

新設桁の組み立てから河川運搬、そして高速本線通行止め期間中の横取り一括架設を含めた約15に及ぶ工種を如何に遅延なく遂行できるか、常に自然との闘いでしたね。例えば、新設桁の河川運搬時には、ゲリラ豪雨等で多摩川が増水した場合、運搬する新設桁と接触する恐れがあるため、多摩川スカイブリッジの下を通行できないおそれがあります。想定されるリスクを未然に防ぐため、対象期間中の増水対策や最も潮位が低くなる日を通過日に設定。これはほんの一例で、「仮に天候不良で作業が中断した場合、翌日の工程への影響度合いは?」「どの程度であれば、各工程を遅らせることができるのか?」など、6月10日の供用に間に合うよう、関係各所に各工種の進捗報告を行いながら、事前のシミュレーションと作業計画・安全管理・リスク管理に全力を注ぎました。

通行止め期間中に橋脚の溶接を行う際には、雨天でも作業ができるよう防雨設備を設置するなど確実な工程管理を実施。また、通行止め期間中には台風が発生し、1日工事が延期しましたが、工程をうまく入れ替えて対処するなど、本プロジェクトには長年培ってきた経験・ノウハウが最大限に活きています。6月9日夕方に全工種が完了し、架け替えが完了した高速大師橋を上司と二人で歩いたのは、良い思い出です。「いろいろな困難があったけれど、完成して本当に良かった」と、これまでの苦労が報われた瞬間でしたね。

首都高に色濃く残る仕事の成果が
新たな業務へのモチベーションに

M.Nimura

技術系総合職(土木)
東京西局 第一保全工事事務所
理工学部 土木工学科卒 2020年新卒入社

2020年に新卒入社し、東京西局 プロジェクト本部 プロジェクト調査・環境課に配属。現在は同局内で首都高の補修などを担当する。

私は、高速大師橋の架け替え工事に伴う高速1号羽田線の一部区間の通行止めを担当しました。通行止めを実施する際には事業管理課に進捗状況を伝え、HP上で随時更新してもらうなど、西局ー東局ー更新・建設局の密な連携がありましたね。併せて、通行止めの相乗り工事として、通行止め区間に設置している各種設備などを包括的に点検・補修する 「羽田線リフレッシュ工事」を実施しました。普段は一車線を規制した工種が主なため、2週間の通行止めで実施したい工種リストは多岐に渡りました。その一例が、道路案内標識のリニューアルです。

門型の道路案内標識は上下線に跨っているため、通常の規制時では工事が困難であることから、優先的に対応することになりました。多種多様な工事を通行止めのエリア内で同時に実施していたので、自身の担当工事を監修した後に、同僚が手掛ける別の現場を見る機会も多かったですね。ガードレールや路面なども全面的に補修したため、羽田線を車で通ると、綺麗な光景が広がっているので気持ちが良いんです。「ここも、あの設備も担当したな」と当時の思い出が蘇り、大規模メンテナンスを実施できたことを嬉しく思いますし、次の業務へのモチベーションも自然と上がります。

交通量の多い首都高において、日々の細かいメンテナンス工事はもちろん、今回のような大規模な通行止めを実施しての更新工事までを経験できるのは、当社の魅力だと感じています。2週間に渡る全面通行止めは、当社では30年以上振り。歴史に残るプロジェクトの一端を担うことができ、改めて首都高に入社したことを誇りに思います。